2009年2月27日金曜日

オバマ政権が大統領直属のOffice of Social Innovationを設置

The Chronicle of Philanthropyの"Crafting a plan for Social Innovation"という記事(無料での記事閲覧はこちら)で、オバマ政権になってホワイトハウス内にOffice of Social Innovationが新たに設置される動きになっていることを知りました。

オバマ氏は選挙活動中から、Social Investment Fund Networkの創設Corporation for National and Community Service内にSocial Entrepreneurship Agencyを設置することを提案するなど、市民セクターの重要性について何度も言及していましたが、どうやらノンプロフィットや社会起業家を支援するための大統領直轄部署が誕生することになりそうです。

その機能や実態についてはまだ公式な発表がありませんが、政権移行の準備チームでthe Innovation and Civil Society subgroupに加わったメンバーたちの話によると、

  • 実績を挙げている非営利組織・社会起業家への政府資金投資
  • 非営利組織・社会起業家と政府の連携体制の強化
  • ボランティア活動の促進のためのITやメディアの活用
  • ソーシャルビジネスや社会起業への支援
  • ソーシャルイノベーションの活性化のための政策立案

などを含め、従来のノンプロフィットやフィランソロピーの枠を超えたソーシャルイノベーションを促進するためのインフラ・環境整備に向け、抜本的な方策が検討されているようです。

Innovation and Civil Society subgroupのCo-Chairを務めたMichele Jolin氏が、Stanford Social Innovation Reviewの記事や、Echoing GreenのPresidentであるCheryl Dorsey氏とのインタビューでも語っているように、技術革新とソーシャルイノベーションが車の両輪ともいうべき役割を果たして、社会・経済の発展と問題解決の原動力となって行かなくてはならないという考え方が、オバマ政権の基本思想の一つとなっています。

もちろん、政府による市民セクターへの関与を手放しに歓迎することはできませんが、ソーシャルイノベーションが果たす役割に関する一般の認識を向上させるには、大きな効果が期待できると思います。

英国もGordon Brown政権になってから、ソーシャルビジネスの支援環境の整備のために盛んに手を打っており、Social Stock ExchangeSocial Investment Bankを創設するための準備が本格化しています。オバマ政権に代わって、米国でもますますソーシャルイノベーションのスピードが加速していきそうです。

2009年2月14日土曜日

Africa Open for Business

先週、ノースウエスタン大学のProgram of African Studiesの60周年記念カンファレンスが催され、私も参加してきました。

このカンファレンスのEnterpreneurship and African Capital Marketsというセッションに、パネリストとして招待されたRobert Foglerさんとは、前日の夕食を一緒にする機会があり、とても興味深い話を聞くことができました。彼は、Thousand Hills Venture Fundというアフリカへの投資に特化したベンチャーキャピタルの創業者で、ファンド運営を統括する傍ら、デンバー大学の国際学部で教鞭も取っています。

以下は、私が「なるほど」と思ったポイント。

  • 5年前にファンドを創設して以来、今まではルワンダに投資対象国を絞っているが、現在他のアフリカの国への拡大も検討中。注目しているのは、ザンビアガーナ。投資先の国を選定するにあたって重視する条件は、1) 治安がよく、2) 政府がビジネス環境の整備に熱心で、3) 小国であること。ナイジェリアのような大国では巨大資本をもっていかないとなかなか相手にしてもらえないが、比較的小さな国だとビジネス・ネットワークを築きやすいのだそうです。
  • 創業時は、まずルワンダに行って、下調べを行った。その後アメリカに戻って投資家を募り、再度ルワンダに渡って投資先企業を選定した。現地の事情に通じた信頼できるパートナーを得ることが、何より大事な成功の鍵とのこと。
  • 彼のファンドに出資しているアメリカの投資家は、基本的に経済的なリターンを求めているが、アフリカに投資するということに社会的な意義を感じている人も多い。ただ、彼自身は、定義が曖昧な"double bottom lines"を隠れ蓑に使うことはしたくないという主義で、投資家に納得してもらえる経済的リターンを出すことがあくまで本筋だと考えているそうです。
  • 創業当初は社会投資(Social investment)というものに共感していたが、最近はどうも疑問を感じている。非効率的な企業が、曖昧模糊とした社会的リターンを護符にして、資本を安価に調達して生き残り、健全な企業を圧迫する可能性がある。
  • アフリカでのビジネスチャンスに興味があるならば、アフリカにある多国籍企業のオフィスでまずは働いて、現地のビジネス環境を学ぶとともに、ネットワークを築くことを薦める。
  • 中国、インド等でのサプライチェーン構築や市場開拓は、アフリカの中小企業にとって大きな関心事項となっている。

また、同セッションには、2006年のBBC World Documentary of the Yearを受賞したAfrica Open for Businessの監督のCarol Pineau氏もパネリストとして参加。ケロッグでも同日にランチセッションを開き、新作のAfrica Investment Horizonsや未完成のKenya Storiesのクリップを見せてくれました。アフリカというと災害、紛争、AIDSなどの病気、貧困という角度でしか報道されない現状に風穴をあけたいと考えたのが、このような一連の作品を手がけるようになったきっかけだそうです。

とても素晴らしい取り組みだとは思うのですが、一方で、時々垣間見える単純な「援助悪者論」的な彼女の発言には、ちょっと辟易させられました。

Enterpreneurship and African Capital Marketsのセッションは、他のセッションと異なりビジネススクールからの参加者が大半を占め、ビジネス機会を中心に議論が展開したため、アフリカ学専攻と思われる学生から「ビジネスだけでは解決できない問題も多いアフリカの状況についてどう考えるか」という質問が投げかけられました。その時も、彼女はあたかも「ビジネスこそがアフリカの問題を救うのであって、援助やノンプロフィットの活動は、問題を悪化させ、先進国の偏見を助長するだけだ」といったやや感情的な回答をしていました。

「援助の非効率性や腐敗の実例をいくつも見てきたので、自分はanti-aid(反援助)の立場だ」とのことでした。もちろんそうした非効率性や腐敗は無くしていかなくてはいけませんが、だからといって援助や非営利組織の意義を全否定して、ビジネスを全ての問題への万能薬のように扱うのは、あまりにナイーブな考え方だと私は思います。それこそ、エンロンの不正会計・不正取引やサブプライムローンの暴走に端を発する金融破綻を見て、「企業は悪者、資本主義は世界を破壊する」と言いたてて、愛だか利他主義だかが地球を救うと信じようとしている人たちと、次元は同じじゃないでしょうか。

2009年2月3日火曜日

Global Federation of Social Investment Exchanges

本日2月3日から6日まで、イタリアでGlobal Federation of Social Investment Exchangesの発足会議が開かれています。

この会議を主導しているのが、ロックフェラー財団のAntony Bugg-Levineさんと、南アフリカのSASIXのCarol Tappendenさん。ご両人とも個人的に面識があるのですが、このイシューにおける素晴らしいthought leadersです。

でも、こういった会議を今開く実質的な意義については、正直どうも疑問を感じます。本当の意味でSocial Investment Exchangeと呼べるworkableなモデルが(多分唯一の例外であるTriodos Ethexをのぞいて)まだ存在していないのに、まずGlobal Federationをつくってスタンダードやら協力体制やら政策やらを話し合うことにどれほどの価値があるのでしょうか。

最適解が何なのか誰も見当もついていない現段階では、各国各様に現地の事情に適合したモデルを、試行錯誤して作り上げていくことの方が、よっぽど喫緊の課題だと思うのですが。相互の情報交換は重要でしょうが、無駄なbureaucracyをつくる結果に終わらないでほしいものです。

ただ、この会議のウェブサイトのResourcesのページは、最近の社会資本市場に関する資料がよくまとまっていて、ご関心のある方にはオススメです。