2010年1月25日月曜日

「日本型経営」と社会起業家

社会起業家フォーラム代表の田坂広志氏の小論『なぜ、いま若者は社会起業家をめざすのか』を一読しました。

小論の主旨である、

  1. 社会起業家が求められるようになった背景に、小さな政府への移行と、単なる善意のジェスチャーに留まらず具体的な結果を求める社会的投資への潮流がある
  2. 社会起業家は、働き甲斐・生き甲斐を感じられる生き方として、お金や出世のために競争に身をすり減らしながら働くことに疑問を抱く若者たちの心を惹きつけている
  3. 現在の日本の社会起業家の最大の問題の一つにビジネススキルの乏しさがある
という三点は、的を射た指摘だと思います。

しかし、田坂氏の「日本型経営」を理想化する以下のような議論には違和感を覚えました。

日本型経営においては、そもそも「社会貢献」と「利益追求」は、決して矛盾するものではなかった

日本型資本主義と日本型経営の歴史を振り返るならば、この国に生まれてきた多くの企業家や事業家は、まさに「企業家的手法を用いて社会的問題に取り組む人材」であり、文字通り「社会起業家」と呼ぶべき人材であったと言える

我々は、海外の動きに表層的に追随することなく、何よりも、こうした日本型経営の原点を深く見つめ、その精神と思想に回帰するべきであろう
「社会貢献」と「利益追求」を合致させると言えば、理念としては立派です。常にそれができるに越した事はありませんが、実際に企業を経営していれば、この二つが矛盾してくる局面も出てくる現実は、何も海外に限りません。日本で企業を経営したからといって、魔法のように社会貢献と利益追求の間の緊張関係が消えてなくなるはずはありません。

その矛盾を、高いレベルで解決してきた志高く優れた経営者は、日本にもいたし、アメリカにも欧州にも、世界中の社会にもいました。逆に目先の利益追求に専念する経営者も、日本を含めて世界中どこにだっていたわけです。

そうでなかったら、つまり、もし田坂氏の説く「日本型経営」が単なる精神論でなく歴史的現実であったとすれば、何故いまだに日本では企業活動を悪者視する風潮がここまで根強いのか、甚だ不可解と言わざるを得ません。

少し話が横に逸れますが、一般に「日本型経営」と言われるものの特徴として、他にも終身雇用や年功序列などがよく挙げられます。実はこれらも、何もそこまで日本に特殊なものではなく、以前は欧米の企業でも広く見られた慣行でした。経済の仕組みが進化を続ける中で、経済合理性に合わないやり方は少しずつ捨てられ、それができない企業は淘汰されました。過去の一時期の経済状況に適応して成り立っていた慣行を、文脈から切り離して「日本型経営」などと呼んで理想視しても、ノスタルジーを満足させる以外に何の役にも立ちません。

ともあれ、社会起業家や社会的企業を、一度も存在しえなかった社会貢献と利益追求が矛盾しない理想状態への「回帰」として捉える語り口は、一部のロマンチストには受けるでしょうが、現実の経済を理解し動かしている人たちの大部分には耳触りの良い話として聞き流される程度で、本当の現状変革や問題解決には結びつかないでしょう。

最近、東洋経済に藤田晋氏等による社会起業家についての懐疑的・批判的なコメントが載せられ、社会起業家に関心のある人たちの間でちょっとした話題になりました。また、堀江貴文氏がブログで「社会起業家とか眠たいこと言ってんじゃねーよ」と書いたり、Twitterでも池田信夫氏が「「社会的起業」なんてナンセンス」と発言しているなど、「社会起業家」というキーワードが徐々に注目を集めるようになるにつれ、これまで一般の耳目には触れる機会が少なかった懐疑的な意見も聞こえてくるようになりました。

こういう人たちにも社会起業家の意義を納得させることができなければ、学生やメディア、政治家・官僚の中に魅力的なキーワードに飛びついて来る人はいたとしても、現在の経済や社会の構造を大本から動かすことはできません。

そのためには、根拠の希薄な特殊性や現実から乖離した理想を拠り所にして、社会貢献と利益追求の間の緊張関係が存在しないかのように信じ込むのではなく、その間にある齟齬を直視しなくてはなりません。社会起業家や社会的企業は、この齟齬を社会・経済システム全体としてより高いレベルで解決するための新たなグランドデザインにおいて不可欠な役割を果たす主体として説明される必要があると、私は考えています。

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2010年1月8日金曜日

掴雲流アラフォーの心得 十二箇条

いつの間にか37歳。年が明けて数えでは39歳と、不惑の一歩手前。

学生気分も完全に抜けきったと言えるのか定かでないのに(第一、半年前までまた学生やってましたし…)、私もいわゆるアラフォーの仲間入りをしていることに気付きました。(いまさら?)

同年代の人たちを一括りにしようとする世代論ってあまり好きじゃないけど、上とも下とも世代の差を意識せざるを得ないちょっと微妙な年齢になってきていることは、最近徐々に感じます。

まだまだ若いつもりだけど、自分が以前は「おじさん」と一括りに捉えていた年齢帯に突入しつつあります。そういえば、白髪も増え、しわも出てきて、体が無理をきいてくれなくなり始め。。

どう足掻いても歳には逆らえませんし、現実逃避しても何の役にも立たないので、開き直って「アラフォーにもなれば、こうありたい」という心得=自戒を、考えつくまま列挙してみました。
  1. 「最近の若いもんはよく分からない」とか言うべからず: 自分が同じことを言われていたのも、そんなに昔じゃない。よく分からないのは、分かろうとする努力が足りないから。若いもんから吸収できること、しなきゃいけないことはまだまだあるはず。
  2. 若いもんに媚びるべからず: アラフォーになるまで、真摯に経験と知見を積み、思索と省察を重ねて来ていれば、自分が学生の頃に考えていたことと今考えていることの間に距離が生まれているのは、極めて自然なこと。同様に、今の学生が考えていることとの間にも、距離があって当然で、そうでなければおかしいくらい。若いもんに「かっこいい」と思われたい気持ちも分かるけど、迎合するのはみっともない。今の自分に自信を持ち、かっこ悪く見えることも、退屈に聞こえることも、堂々と主張し、やり通そう。
  3. 目上は敬して之を遠ざけるべからず: 若い頃は、目上の人を必要以上に軽んじたり、うざったがったりしがち。経験の大切さを真に身に沁みては理解していなかったし、また年輩の人にどう接すれば良いのか今ひとつよく分からなかったから、それもある意味仕方なかった。でもアラフォーにもなれば、そんな言い訳は通用しない。彼らの経験の蓄積とそこから生まれる洞察に敬意を払い、積極的に学ばせてもらおう。
  4. 目上を「上から目線」で見る姿勢を持つべし: アラフォーたるもの、何も分からずに上に楯突いて無責任にえらそーな事言ったり、逆に上から言われたからとよく考えもせず従ったり、といったことはいい加減卒業しないとまずい。会社の重役であれ一国の大臣であれ、どんな目上の人に対しても、自分自身が当事者になったつもり、さらには彼らの上司にでもなったつもりくらいの意識を持って考え、建設的なアドバイスができるようになる必要がある。そうすることで、大局を見て必要に応じ優先順位をつけ、個別の正論に従うのではなく全体最適を図ることができるリーダーとしての素養を培おう。
  5. 愛する者を愛すべし: 若い頃は自己愛が偏って大きく、他を本当の意味で愛する余裕のない人が多い。家族でもいい。恋人でも友人でもペットでもいい。「神」や、世界中の生きとし生けるものと言うならそれでもいい。自分自身にしっかり愛情を注いであげるのも大事だけど、自分以外に心底から愛することができる対象がいるというのは、かけがえのない幸福。その愛情を伝え、育む努力を決して怠ってはいけない。
  6. 守りに入るべからず: 守るべきものがあるのは素晴らしいこと。だけど、守りに専念するにはあまりに早すぎる。これまでに築いてきた関係、信用などの資産を、守るだけでなく、動かし、組み替え、工夫して最大限に活用して、さらなる高みを目指そう。
  7. スタンスを取るべし: ケロッグでグループディスカッションをしていた時に、私が「Xじゃないかなと思うんだけど、でも皆がYと考えるのも分かるんだよね」みたいな発言をしたところ、すぐさま友人から「スタンスを取れ」とビシッと言われた。「議論を深め、グループとしてより良い結論に到達するために、異なった視点から(例え100%確信がないとしても)きっちり論理を展開して見せろ」ということ。自分の主張が合ってるか間違ってるか、採用されるかされないかよりも、その議論をすることが全体の結果の向上に役立つかどうかを、一番の基準とし、自分を捨て石にすることも厭わない。
  8. 敵をつくることを恐れるべからず: 不必要に敵をつくることは避けなくてはいけないけど、誰にでも好かれようとしていては、何事も成し遂げることはできない。凡そあらゆる変革には、得する人がいる一方で、損をする人もいる。本質を抉る発言であればあるほど、賛成する人も反対する人も多くなる。敵を味方に変える工夫はするが、しかし敵をつくることを恐れず腹を決め、主張すべきことは主張し、為すべきことを為そう。
  9. システムを動かすべし: 自分の力だけでは一人相撲。周囲の人の力を使っても、まだ狎れあいの域を出るのは難しい。若い頃はそれもいい。色々やってみてそこから学べばいい。ただ、対症療法でない本質的な持続的変革は、人の動静の根底にあるシステムを動かして初めて可能なことを、アラフォーにもなれば理解していなければならない。果敢という名の思考停止、挑戦という名の自己陶酔を脱却し、思考、行動、議論の全てを駆使してシステムを動かそう。
  10. 歴史に学ぶべし: 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。空虚な理念でなく、人間の現実を学ぶには、様々な社会の様々な歴史は最良の教科書。複雑な社会のダイナミクスを理解するのにも、この上なく貴重な「実験室」 を提供してくれる。目先のトレンドに振り回されていることに気付きもせず振り回されたり、せっかく歴史を紐解いたのに英雄崇拝に終始したりといったことは、アラサーまでで十分。現実を知らずして、現実を変えることなんてできない。歴史の深い教訓を学び、活かせるようになろう。
  11. バランスにしがみつくべからず: バランスは確かに重要。だけど、バランスをとること自体が究極の目的ではないことに、もう気付かなければならない。何でもかんでも「バランスが大事」という科白で片付けていたら、突き抜けることなんてできない。現状より高次のバランスに達するためには、今あるバランスも崩して前に進まなくては。人間は、直立している状態からバランスを崩して、初めて前に進むことができる。
  12. 「不惑」になるべからず: 孔子曰く、「四十而不惑」。でも、40といえばもうそろそろ一生の締めくくり方を考え始なければいけなかった孔子の時代と異なり、今のアラフォーはまさに人生これから。惑わなくては進歩は無い。前に進みつづけるために、大いに惑わずにはいられない状況にこれからも自分を置いていこう。
ちょっとレベル感ばらばらですが、細かいことはご容赦いただいて、以上十二箇条。他にも色々ありそうですが、とりあえず思いついた中で特に私が大事だなと思ったのはこのあたり。

同年代のアラフォーの方々の、「これも大事!」という心得がありましたら、教えてくださいね。

また、アラフォー未満の方々の「アラフォーにはこうあって欲しい」という要望、元アラフォーの方々の「あの頃の自分にこう言ってやりたい」という教訓も、是非お聞きしたいです。


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2010年1月3日日曜日

新年明けましておめでとうございます

謹賀新年


Clouds with silver linings

over Ssese Islands on Victoria Lake, Uganda

新年明けましておめでとうございます!

昨年6月に米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院の経営学修士(MBA)課程を無事修了し、現在はウガンダに滞在しています。
  • 2009年前半は、サンパウロ証券取引所の支援を受けて行った社会起業家向け資本市場のためのパイロットデザイン・プロジェクトに没頭しました。執筆したレポートは、Global Exchange for Social Investment (GEXSI)Social Stock Exchange Association (SSEA)のウェブサイトにて近日中に公開される運びとなっています。
  • また、私が共同創業者として参画しているKaienは、自閉症を持つ方たちの強みを活かしてソフトウェア検証を行うビジネスプランで、4月にニューオリンズで開催されたTulane Business Plan Competitionにおいて優勝を果たしました。その賞金を軍資金に、9月には日本で法人化し事業を開始いたしました。
  • ビジネススクール卒業後は、派遣元のコンサルファームへの復職のタイミングを延ばしてアフリカに渡りました。ルワンダのマイクロファイナンス銀行での一ヵ月半のインターンを含めて、11月中旬までの4ヶ月間、東部および南部アフリカ11カ国を巡りました。約80の現地企業や機関を訪れ、120人以上の投資家・事業家・社会起業家・政府官僚などと面会して意見を交換する中で、中小企業にリスクキャピタルを提供する金融がアフリカの開発に果たす役割に強く関心を惹かれました。
  • 11月中旬からは、ウガンダにあるAfrican Agricultural Capitalという農業関連ビジネスへの投資に特化したベンチャーキャピタルで仕事をしています。
  • その他、ブラジルでの経験を活かして、社会資本市場の整備に向けて準備を進めているシンガポールのImpact Investment Exchange Asia (IIX)やケニアのKenya Social Investment Exchange (KSIX)といった取り組みにも参画することになりました。

春頃には日本に戻る予定です。今年もさらに前進と飛躍に向け挑戦いたしますので、何卒ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。

皆様のご健康とご多幸を心からお祈り致します。

徐 勝徹 a.k.a. cloudgrabber

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