2008年11月17日月曜日

Net Impact Conference

11/13-15にフィラデルフィアで開催されたNet Impact Conferenceに行ってきました。

ビジネススクールに通う学生の中で社会問題やノンプロフィット活動に関心のある人たちがクラブを作り、各校のそうしたクラブのネットワークとして1993年に生まれたのがNet Impactです。今ではビジネススクール以外の大学院生や学部生、それに社会人まで加わり、メンバー数は1万人以上にのぼります。支部も世界中に広がっていて、日本にも支部があります。

日本ではビジネススクールというと、なんだか個人的な金儲けや栄達にだけ関心がある人が行く所で、社会問題の解決や公共善の増進などとはやや縁が薄い存在なんていうイメージで受け取られがちです。しかし実際には、ビジネススクールの学生のこうしたイシューへの関心はとても高く、ケロッグでもSocial Impact Club(Net Impactの支部)はConsulting ClubやFinance Club等と並び、学内最大規模のクラブの一つになっています。

フィラデルフィア土産、Liberty Bellのミニチュア

今年のテーマは“The Sustainable Advantage: Creating Social and Environmental Value"。Room to ReadのCEOのJohn Woodや、World Wildlife FundのCEOのCarter Roberts等による基調講演のほかに、

  • Corporate Social Responsibility
  • Energy and Environment
  • International Development
  • Social Impact Finance
  • Social Entrepreneurship

という5つのトピックに関連した多種多様な分科会が開かれました。分科会の数が多すぎて、全てを覗くことはとてもじゃないけど不可能ですが、私が参加した中から感想をいくつか。

  • 一番印象に残ったのは、Mission MeasurementのCEOのJason Saulさんによるワークショップ。彼は、私が現在board memberとして参画しているCenter for What Worksのco-founderでもある。「単に漠然と社会のためになることをするというCSRは、もはや過去の遺物("CSR is dead")でしかなく、今後はCEOが追っている経営指標に対してどのような効果があるのかを示すことができるようにならなくてはならない」という彼のメッセージは、今まで聞いたどんなCSRに関する話よりも私の腑に落ちた。ポーターの言う「戦略的CSR」を、抽象論からオペレーショナルなレベルに落とし込むためには、彼らが勧めるようなファクトベースのマネジメントアプローチが必要になるのだろう。
  • ソーシャルビジネスを制度面で支援する動きが、加速度的に活発になっている。Low-profit Limited Liability Company (L3C)という新しい法人形態が今年の4月にバーモント州で初めて採択され、非営利組織でなくても財団からのProgram Related Investment (PRI)が受けられるようになった。B Labを中心とするソーシャルビジネスの連合体もプレゼンスを高めていて、B Corporationの法制化を目指している。 近年政府がソーシャルビジネスに対する積極的な支援策を次々と打ち出している英国に比べ、米国は制度面でやや出遅れている感があるため、オバマ新大統領に対する期待は高い。
  • 今年のオーガナイザーがファイナンスに強いWharton Schoolだったせいもあってか、昨年よりややファイナンス絡みの話題が多かった気がする。
  • 社会資本市場への関心が、昨年より格段に高まってきているのを感じた。ムハマド・ユヌス氏が2006年ノーベル平和賞の受賞スピーチや『Creating a World Without Poverty: Social Business and the Future of Capitalism』で言及したことによる効果が大きいようだ。彼が言っていることは特に画期的でもなんでもないが、影響力は絶大。B Labの創始者のJay Coen GilbertさんやBart Houlahanさんと話をした時に教えてもらったMission Marketsなど、新しい取り組みがそこら中で始まっている。ただ、みんなソーシャルビジネスのための株式市場を考えている。個人的には、「ソーシャルビジネスに注目するあまり非営利組織のニーズを見過ごしてしまっているが、それでよいのだろうか」、「ソーシャルビジネスにしても本当に株式市場が最適解なのだろうか、株式以外の資本の方が少なくとも現段階では有効なのではないか」、という疑問が残る。
  • Wharton Social Stock Exchangeというシミュレーションに参加したが、完全に期待はずれ。シミュレーションのインターフェースはなかなか洗練されているが、単なる普通の株式市場に、企業活動の社会的側面に関するニュースが流れてきて、それに市場参加者がどう反応するかをみるだけのもの。肝心な「既存の資本市場で扱うことができないでいる社会的価値という外部性をどう内部化するか」という問題に関して全く答えておらず、"Social Stock Exchange"の名に値するものではないと思った。

2008年11月8日土曜日

Kivaの創始者からのフィードバックと、Ashoka Fellowとの協働プロジェクト

今学期は、高機能自閉症の方を雇用する社会起業プロジェクトにフォーカスをシフトしていますが、平行して「社会貢献価値」市場プロジェクトの方もぼちぼち仕込んでいます。自分たちのアイデア自体にエキサイトしていた段階から、一歩退いて、様々な人からフィードバックをもらいながらアイデアを「発酵」させている状況といえるかもしれません。

先月Kivaの創始者のJessica Jackley Flanneryさんが、Innovating Social Change Conferenceでの基調講演のためにKelloggを訪れた時に、少しお話をする機会があり、私たちの社会貢献価値市場プロジェクトについてもちょっと触れたところ、関心を示してくれました。そこで、メールでコンセプト説明資料とビジネスプランの草稿を送ったのですが、主に

  • 需要サイド(Social enterprises)、供給サイド(Social investor/Donor)の双方に、このような斬新な社会金融システムへのニーズが本当にあるのか、という疑問に対して説得力がまだ不足している。この点を補うためにも、Kivaを含む既存のプレイヤーが持つ長所と欠点のより詳細な分析を示す必要がある。
  • 現在のビジネスプランでは富裕層をまずターゲットとすることになっているが、もっと幅広い層の参加を促進するための工夫はできるのではないか。
という二点のフィードバックを頂きました。Jessicaさんは、
『To be clear, I think this is quite good! Just wanted to provide some feedback that may illuminate ways to make the doc even better.. Hope this is helpful and pls keep in touch as things develop.』
と言ってくれているので、今後また改良を加えた後に相談にのってもらえればと思っています。

来学期(2009年1月~3月)には、ブラジルのサンパウロ証券取引所(BOVESPA)が開設しているEnvironemntal and Social Investment Exchangeの発展型を開発するというプロジェクトをAshoka FellowでもあるCelso Greccoさんと一緒に実施することが決まりました。このプロジェクトはThe Global Exchange for Social Investment (GEXSI)との提携により実現したもので、フィールドトリップの旅費はKelloggのThe Carol and Larry Levy Social Entrepreneurship Labから支援をうけることになっています。

この一年間で、このまだ狭い「業界」の色々な人と話をしてきました。そのうちの多くの方が、「"Social Stock Market"を創ろうという掛け声のもとにこれまで出てきた他のどんなアイデアよりも、独創的で、良く練られている」と言ってくれる一方で、「ただ時代の先を行き過ぎていて、実現するには大いに難航する可能性がある」という懸念を示しました。事業コンセプトを、机上の空論を離れ、できる限りシンプルで実践的な形に進化させていかないとならないわけですが、BOVESPA/GEXSIとのプロジェクトは、そのためにも絶好のlearningができそうなチャンスになりそうです。

2008年11月4日火曜日

スタディトリップを敢行!

現在自動車業界では、急増する組込みエンジニアへの需要を、
  1. 社内または子会社
  2. 国内ソフトハウスへのアウトソースまたは派遣会社
  3. インド・中国等へのオフショア
で対応していますが、概して他業界に比べて2や3の取り組みが遅れています。1>2>3の順で円滑なコミュニケーションやクオリティの確保もしやすい反面、コストも高くなります。また、フレキシブルな労働力調整(現況では特に人員増加)が可能なのは逆に3>2>1の順になります。

そうすると、単純に言えば、2と同等または少し高いくらいのコストでも、1とほぼ同等のクオリティを提供できれば十分勝算があるといえそうです。そのためには、一番の工夫のしどころになるのが、高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちが本当に能力を発揮でき、それを顧客企業に評価してもらえるような環境・システムの作りこみだと考えています。
  • トレーニング
  • 業務プロセス
  • プロジェクトマネジメント体制
  • 顧客とのコミュニケーションインターフェース
  • オフィス環境
といった諸要素を、高機能自閉症やアスペルガー症候群の方の特性にあわせ、なおかつ顧客のニーズにより良く応えることができるように、根本から見直してデザインしなおす必要があります。

この数週間で日米の自動車業界、組込みソフト業界、それに自閉症支援専門家の方たちにインタビューをしまくって、「これは行けそうだ」という感触がだんだん強まってきました。しかしそうは言っても、やはり現場を見ないことには、どうにもピンと来ないことが沢山あります。

そのため、思い切って今月後半のサンクスギビングの休暇を利用して、Sさんと私で日本の自動車部品メーカーやソフトテスト会社を訪問することにしました。訪問先の企業から、いくつか見学OKとのお返事をいただき、目下日程を調整中です。

ただ、できるなら自閉症の方の就労支援に詳しい方と一緒にこうした現場を訪問できれば、収穫は数倍になるはず。この分野で著名な大学教授数人ともお話させていただいたのですが、生憎なかなか日程が合いませんでした。

というわけで突然ですがこの場を借りて、11月24日の週で、東京、大阪、名古屋の各地で、私たちと一緒に企業訪問をしてくださるボランティアを募集させていただきます。もしも、このブログをお読みの方のお知り合いに、

  • 自閉症者の就労支援の専門家(特に高機能自閉症、アスペルガー症候群)
  • 自閉症スペクトラム支援士
  • ご自身が高機能自閉症、アスペルガー症候群で、ソフトウェア開発のご経験がある方

がいらっしゃったら、是非ご紹介いただけると有難いです。