2009年3月25日水曜日

ブラジルより - その3

ブラジル滞在もあっという間に2週目に突入。残り日数が少なくなってきました。
  • 3月22日(日): 翌日のディスカッションに備えて、資料作成に深夜過ぎまで精を出す。
  • 3月23日(月): 朝から、Celsoさんと、BM&F BOVESPA Institute(BM&F BOVESPAのCSR活動を担当する組織)のスタッフ、それにドイツから訪れているMichel Alouiさん(新興市場で成功をおさめた元ベンチャー経営者で、現在は自ら創設したBrandStiftungという財団のCEO)とミーティング。これまで得られた知見を共有し、そこから考えられる仮説について話し合う。午後は、①Nelson Spinelliさん(元BOVESPAの副会長。現在はBM&F BOVESPA Instituteの副会長であり、独立系大手証券会社のCEO)と、②Fernando Rossettiさん(Group of Inistituites, Foundations and Enterprisesの事務総長)とインタビュー。
  • 3月24日(火): 朝サンパウロを発ち、車で3時間ほど北東に位置するCunhaという町に向かう。環境保全、有機農法の指導、それに有機作物の販売支援を行っているSerra Acimaを訪れ、CEOのMarcelo Michelsohnさんと、財源確保の問題や今後の戦略について話し合う。実際の指導現場にも足を運び、農民の方々から、なぜ有機農法に関心を持ったのか、有機農法に転換するにあたってどのような懸念や困難があるのかなど、聞き取りをする。

Cunhaの農家にて

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一月上旬にCelsoさんと、SSE2.0(寄付プラットフォームであるBVS&Aを第一世代として、より本格的に市場メカニズムを活用した第二世代のSocial Stock Exchange)の構想について初めて話し合った時は、周囲で色んな人が、「あれも考慮しなくてはならない」、「これも検討しなくてはならない」、とレベル感の異なるバラバラなことを言っていて、何が核心の問題で、具体的にどこからどうやって手をつけてよいのか分からず、五里霧中の状態にいるように見えました。

そこで私たちは、①ユヌス氏がああ言っているとか、GEXSIはこう言っているとかは、一旦置いておいて、ブラジルの現状に合致したメカニズムは何かをゼロベースで考える(例えば、株式市場が本当に最適解なのかという根本的なところから検証の範囲に含める)ことと、②提供する側の理屈ではなく、ユーザー側(この場合は、ソーシャルビジネスと出資者)の視点で設計を行うことを提案し、そのために、以下のようなプロセスでプロジェクトを進めることにしました。

  1. 基本方針の明示化と確認: 今までに無い金融の仕組みをつくろうというのですから、制度設計において考慮しなくてはならないこと(変数)は山ほどあります。ですからまずは、動かない軸足をどこに置くかを決める必要があります。私たちは最初の数回のディスカッションやQ&Aを通して、彼らが何を目的としてこのSSE2.0をつくろうとしているのか、基本理念や方針、最低限これは満たさなくてならないという条件、など暗黙の了解となっていたものをあぶり出して言語化し、話し合いの上で再確認・共有するという作業を行いました。
  2. 設計変数の洗い出しと優先順位付け: 次に行ったのは、制度設計の肝となる変数は何かを考えて、タスクの全体像を把握し、それに優先順位をつけることでした。リターンやリスクと言った金融商品設計の根幹の話から、管理・監督体制といった話まで、一緒くたにして扱っていては、いつまでたっても話が進んで行きません。ですから、一番最初にどこまで考えるのか、その次にはどのイシューに答えを出して、後回しにして良いのは何かを明確にしました。その上で、重要な設計変数について、それぞれふり幅はどのくらいで、その間にどのようなオプションがあり得るのかを整理しました。
  3. ソーシャルビジネス側と出資者側の双方のニーズの把握と制約条件の理解: ブラジルのソーシャルビジネスと潜在的出資者を対象に、実際に彼らがそれぞれどの設計変数を重要だと考え、どのオプションを選好するのかを理解するため、簡易コンジョイント分析を含めたオンラインアンケートを実施しました。さらに、今回こうしてブラジルに来て、多様なステークホルダーとのインタビューを通して、オンライン調査から得られた情報への肉付けと、ブラジルのビジネス環境、金融事情、非営利組織およびソーシャルビジネスを取り巻く文化と制度といった背景の理解に努めているというわけです。
  4. 制度案の提示: 今週土曜日にシカゴに戻ってからは、今回のフィールドトリップで得られた知見を整理するとともに、オンラインアンケートの分析結果と照らし合わせ、それを基に、ソーシャルビジネスと出資者双方のニーズをより良く満たすことができる制度の草案を設計・提案します。つまり、1で確認した事項を軸足に、3で得た情報を使って、2で洗い出した変数について最適化するという思考の流れになります。
  5. 実行プランの作成: コアとなる金融商品や取引プラットフォームを成り立たせるためには、どのような手順をとらなくてはならないか、また必要とされる付帯サービス(例:会計トレーニング、ビジネスコンサルティング、監査)を提供するためには誰が何をするべきかを提案します。

私も相棒のTも、これだけ画期的で注目度も高いプロジェクトに関わり、ほとんどフリーハンドで思い通りにやらせてもらっているので、とても大きなやり甲斐を感じています。

4 件のコメント:

  1. ”暗黙の了解の言語化”に惹かれました。

    人間関係の暗黙のルールが明文化されていれば、苦労はだいぶん回避されるのではと思います。

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  2. > あまがえるさん

    日本の社会の場合、同質性がたかいことが前提とされているため、特に暗黙のルールが占める役割が大きくなっていますよね。

    ただ、暗黙知を全て形式知に変換することは不可能だし、大きく効率が損なわれるので、「これは解釈の余地が無いようにしっかり明示化・共有化しておかないと、先に進めない」という勘所を押さえることが大切かと思います。

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  3. あまがえる2009年3月28日 22:38

    日本の外の世界では前提になる同質性のレベルが異なるのですね。
    適度に低いレベルが前提にならば、機能しやすいかもしれないのか?
    海外へ行った時によく観察してみようと思います。

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  4. 日本の他にも、文化的同質性の高い社会は、世界中にまだまだ多いでしょうが、「空気を読む」ことがここまで重要視されているってのは、ちょっと特殊なのかもしれないと思います。

    日本的な目から見ると、アメリカ人にはKYな人が沢山いますが、それでみんな全然かまわないし、かえってそれが集団思考を回避するなど、プラスに働いている気がします。

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