2009年3月19日木曜日

ブラジルより - その1

前回のエントリーで書いたとおり、今ブラジルに来ています。

  • 3月16日(月): 期限ぎりぎりでValue Based Leadershipの授業のtake-home examを提出し、夕方あわただしくシカゴを発つ。
  • 3月17日(火): 朝サンパウロ到着。午後BM&F BOVESPAでミーティング。ブラジル側チームと、この2週間の予定確認および期待する成果についての意識のすりあわせをする。
  • 3月18日(水): 午前中休息。午後は①Instituto de Estudos do Trabalho e Sociedadeというシンクタンクのスタッフでマイクロファイナンスを専門とする方、②社会起業家を育成するNESsTのスタッフ、③Fundação Getulio Vargasのビジネススクールの教授、の3人とインタビュー。夜、Porto Alegreに飛び、深夜過ぎにホテルにチェックイン。

という具合に、忙しく走り回っています。

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さて、一体何しにブラジルに来ているのか、ちょっとこのプロジェクトの背景について改めて説明しときましょう。

一言でいえば、コンサルティングプロジェクトで、クライアントはBM&F BOVESPA(サンパウロ証券取引所)。昨年5月、株式市場のBOVESPAと先物市場のBM&Fが合併。世界屈指(ラテンアメリカでは最大)の規模を誇る証券取引所です。

2003年、BOVESPAは、ありきたりの寄付活動に飽き足らず、もっとイノベーティブでユニークな形で社会貢献をできないかと考えていました。そこに、CSRやソーシャルマーケティングのコンサルに特化するAtitude Marketing SocialCelso Grecoさんが、「社会株式市場(Social Stock Exchange)」をつくることを提案し、BVS&A(Environemntal and Social Investment Exchange)が創設されました。

ところが実際には、BVS&Aは株式を扱うわけではなく、その本質は、Globalgivingなどと同じ寄付プラットフォームです。一般投資家が理解しやすい株式市場の用語を使い、さらに本物の証券取引所が手がけているということで、Newsweekを始め一部では「世界初の社会株式市場」とも呼ばれていますが、Celsoさんは、BVS&Aのコンセプトをさらに発展させて、本当の意味での社会株式市場をつくりたいと考えていました。

そんな中、2006年のノーベル平和賞受賞スピーチなどで、ムハマド・ユヌス氏がソーシャルビジネスのための社会株式市場設立を提唱し、それを推進するため、シュワブ財団やベインなどの支援によって、ダボスの世界経済フォーラムでGEXSI(Global Exchange for Social Investment)が設立されます。こうしたグローバルな追い風もあって、BOVESPAはCelsoさんのアイデアに賛同し、ゴーサインが出ました。

しかし、極めて抽象的なコンセプトとしては多くの人が魅力を感じているけども、どうすれば実際に機能する社会株式市場がつくれるのか、具体的なデザインを考え始めると疑問が山積み。だれもやったことがないし、だれに聞いても答えが出てこず、これはユヌス氏とて同様。

抽象論を離れ、具体化に向けた取り組みとして最も先頭を走っているのが、英国のMark Campanale氏やPradeep Jethi氏が設立準備を進めているSocial Stock Exchange Ltd.だと思います。社会株式市場の実現可能性を探るため、ロックフェラー財団から50万ドルもの支援を受けて、本格的な市場調査を行いました。

一方、BOVESPAは、昨年のBM&Fとの合併以降、まだリーダーシップの移行などが続いていて、なかなか調査だけのために大きな投資に踏み切れる状況ではありません。そんな折も折、私たちがGEXSIを通してCelsoさんに紹介され、お互いの関心・ニーズが見事に合致して、今回のコンサルティングプロジェクトが始まることになったというわけです。

4 件のコメント:

  1. 社会株式市場とは聞きなれないですね。
    投資家がグリーンマネーのように、社会に役立つ企業に投資をするという意味でしょうか?

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  2. 正直、イマイチ自分では、
    とても先進的な取り組みのようだけれども、
    どういったものなのかイメージがつかないと言うのが実際の所。
    (アショカ財団のような機能を市場からの資金調達を介して機能させるため、証券所にその一翼を担わせようってコトなのかな?とイメージしてますが・・。)
    こういった認識のレベルの人が大多数で、
    場合によっては、一読しただけで、「あ、よくわからんから、えぇわ」と手のひら返されそう・・。
    それを、実際に理解させ、機能させるとなると、まさに想像するだけで大変そう・・。
    (とはいえ、とても興味深く、刺激的でもありますが。)
    続報、とても楽しみにしております。
    頑張ってくださいね!!

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  3.  ルルこと富永です。

     日本の公益法人制度改革で、中間法人にあった「基金」制度が新社団制度に入りました。

     「基金」は、外部負債でありながら、なおかつ純資産に計上されるもので、いわば「非営利の出資金」と言える制度です。配当が出ず、外部負債、つまり持ち分とも議決権とも結びつかないが、法人解散時には拠出額を上限に最後の残余財産を拠出額の比例で返還します。

     ただ、相当額の剰余金がないと拠出者に返還できない(代替基金を積むため)、減資手続きにあたる手続きがない(配当がないのでタコ配当防止の必要がないからですが)ということで、NPOバンクに関わっている会計士さんの見通しは「返して欲しい時に返してもらえないならお金を集めにくいから、使いものにならない制度」というものです。私は違う意見ですが。

     株式会社の株式も基本的には一度買ったら(出資したら)会社から出資金を返してもらうのではなく(自己株は解禁されましたが)、第3者に売ることで換金するものです。それをシステム化したのが株式市場ですよね。

     新社団の基金拠出分についても株式市場のような市場があれば流動性が発生するのかな、とは抽象的には思っているのですが、問題は株式会社での価格の変動にあたるものって、非営利、ソーシャルの世界では何なんだろう、もし本当に価格の変動そのものだとすると、その変動分は取引主体同士のあいだに帰属するものなのか、非営利法人自身にとってのプラスって何なんだろう……とか、いろいろ思います。

     寄附プラットフォームということですと、基本は、「★共通の評価基準を整備して証券取引所にあたる第三者機関がその公正性・透明性を担保する+★証券会社にあたる仲介者が寄附を仲介する」ということなのかなと思いますが、日本の法制度の動きとの関連としては、上記のような基金制度の弱点への手当ての方が「社会株式市場」という言葉にはぴったり来るように思います。

     社会株式市場についての続報、よろしくお願いします。

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  4. > scorpioさん

    本文でも触れたとおり、細部についてはユヌス氏も含めて誰もまだはっきりしたアイデアを持っていないというのが現状だと思いますが、基本的には成長資本を必要とする社会起業家と、経済的リターンだけでなく社会的リターンを同時に追求しようとする投資家を仲介する機能を果たす市場メカニズムだとご理解頂ければよいかと思います。

    日本では確かにまだまだ聞きなれないコンセプトですが、欧米だけでなくブラジル、南アフリカ、タイなど世界中のソーシャルイノベーションの実践家・理論家が関心を持って活発な議論が進行中です。


    > ササさん

    おっしゃるとおりだと思います。ほとんどのイノベーションは最初は「大多数」の人には理解してもらえないものですから、本当に価値を理解してくれる人たちのニーズを満たすことから、小さく始めればいいのだと思います。

    大変だから「あ、えぇわ」となる人がいるのは当然ですが、私自身は大変だからこそ、遣り甲斐を感じる方ですね。


    > 富永さん

    基金の話も含め、日本の公益制度改革についてはまだまだ勉強不足ですので、帰国の際には是非一度お会いしてじっくりお話を伺う機会を頂ければと考えています。

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