- 日収$2以下で暮らしている人は全世界で約30億人。内、18億人は生産年齢だが、現在マイクロ・ファイナンスのサービスを受けている人口は1.2億人程度。このため成長余地は大きいと考えられ、また先進国の銀行では考えられないほど利益率も高いことから、ビジネスチャンスに関心を持った金融界から大量の資金が流入してきている。
- CGAPの2004年度調査によると、海外資金によるMFIへの投資のうち、69%が債権、23%が株式、残りが信用保証の形式を取る。
- MFIのローンの証券化、流通市場創設への動きが現在進行中。
- 資金供給過多に対して、MFI側のキャパシティが追いついていない。特にボトルネックになっているのは、マネージャー人材。リテール銀行の出身者は大歓迎される。ローンオフィサーの人材獲得競争も深刻。
- 30億人の貧困層全てが本当にマイクロ・ファイナンスを必要としているかは、議論の余地あり。これまでマイクロ・ファイナンスが主に対象としてきたのは、貧困層の中では中~上位の層。絶対貧困層は金融サービスのメリットを享受できる状態ではなく、その前にまずは従来型の開発援助(教育、保健衛生、雇用訓練、等)が必要と考える人も多い。
- また、彼らに実際にマイクロ・ファイナンスを提供することが可能なのかどうかも不確か。これまでマイクロファイナンスは、農村地域に金融サービスを提供することに貢献してきたが、主な成功例はどれも過密人口国。最貧困層の住む遠隔の過疎地には、コストがかかりすぎるため到達できていない。ITの活用に注目が集まっているが、携帯電話網等のインフラの無い地域ではITも役に立たない。
- マイクロ・ファイナンスの貧困削減効果について語るときに、ローンによって貧困層の起業を助けることで収入源を増やすというロジックが使われることが多いが、実際に起業資金に使われるケースは少数。
- ただ、起業資金以外に使われるローンには貧困削減効果が無いと考えるのは誤解。冠婚葬祭や緊急時(稼ぎ手の死亡、災害、事故、病気、盗難、etc.)、その他出産、子供の進学、住宅購入等の一時的に大きな支出が必要な時に、資金源がないために闇金融に頼るしかなくてさらなる困窮に陥っていた人々に、新しく健全な資金源が提供されることだけでも、大きな意義がある。事業の運転資金も重要。
- 基本的なビジネスモデルは、低金利(慈善資金を含む)で資金を調達し、闇金融よりは低く銀行よりははるかに高い金利で貸し出すことで利益を出す。費用構造はほとんどが営業費用で、これも銀行よりははるかに高い。低賃金で一生懸命働くローンオフィサーの存在は大きい。ローンオフィサーの業務効率と、ポートフォリオの質(不良債権の比率)は、MFIの業績を左右する最大の要因。
- 貸し倒れ率1%と言った数字が一人歩きしている観があるが、鵜呑みは禁物。不良債権計上を遅らせたり、返済期間繰り延べを行って帳簿上の貸し倒れ率を低く抑えているだけという場合もある。また、グループローンでは一人が返済できなくてもグループの他のメンバーが返済することで、貸し倒れ率は低くなるが、返済できなかった個人への過度のプレッシャーにより社会問題になることもある。ただ、そうは言っても、全般的にMFIの貸し倒れ率が一般の銀行に比べ圧倒的に低いという事実は変わらない。
- MFIの強みはリテール、特に地方・貧困層への浸透力。銀行とマイクロファイナンスの間で相互参入が進み、境界が曖昧になる中で、競争は激化しており、強みを伸ばしていかないと生き残れない。プラハラードの『ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略』でも紹介されているICICIは、銀行とMFIのそれぞれの強みを活かし分業体制を築いた好例。
- 営利事業化が進行中。「慈善資金に頼っていてはサービス拡大に限界があるため、持続性を確立し、事業拡大を図るには営利事業化は必然」という見解がある一方で、「貧困削減の目的をm見失っては、マイクロ・ファイナンスが単なる高利貸しの美名になってしまう」として警戒する人たちも多い。
- 現在のところ、営利MFIが非営利MFIよりも効率的、または利益率が高いといった主張には、必ずしもデータによる裏付けが無い。
- 担保を持たない貧困層のため、社会的信用を担保にするグループローンの手法が有名だが、最近は個人ローンに重点を移すMFIの例が増えている。個人ローンは金額が通常グループローンに比べ高いため、MFIの業績には好材料だが、一方で貧困削減という観点からはグループローンは今なお重要。
- ソーシャルセクターとしては例外的にデータの標準化や情報開示への取り組みが進んでいるが、貧困削減効果に関しては「ローンあたりの金額」以外に標準的に比較可能なデータが無い。
- 現在ではほとんどのMFIがローンだけでなく、貯蓄商品を提供している。また、送金サービスも需要が高く成長している。
- マイクロ・インシュランス(低所得層向け保険商品)は、貧困削減効果が高いとして注目はされているが、いまだビジネスモデルとしては未発達。つい先日、ゲイツ財団が、Opportunity Internationalの運営するMicro Insurance Agencyに2400万ドルの支援を行うことが報道され、これが起爆剤となることが期待されている。
結論としては、これまで自分の中で持っていたマイクロ・ファイナンスに関する「神話のベール」のようなものを取り払い、客観的にビジネスモデルと業界構造を理解することができたのが最大の成果だったと思います。
Mixiの足跡からきました。
返信削除MFIの証券化、流動化のスキームができることは喜ぶべきことなんですが、サブプライムみたいにどこかで崩壊たときに大きな問題にならないと良いんですが…。
今までになかったビジネスモデルだけに、きちんとした議論ができないうちに大量な資金が流れ込むとなると、問題も表面化してきそうですね。
リクエストへのお応えありがとうございます☆
返信削除3番の『MFIのローンの証券化、流通市場創設への動きが現在進行中。』や17番の『マイクロ・インシュランス(低所得層向け保険商品)』のようなMFI事業の多角化(金融商品の多様化でしょうか?)の流れがここ数年で著しいですね。
インドネシアなどの人口過密国は様々なビジネスモデルを考察しながらでないと、成功すれば大きな影響が与えれますが、失敗したらその分。。。。っと言ったところです。
先日、僕の行ったNGOも金融商品の多様化にはまだ未着手でグラミンが最近始めた年金制度のようなものを始めようか迷ってると聞きました。まだまだこの業界はホットになりそうで楽しみです。
ではまたブログの方拝見させて頂きます☆
なるほど。かなり充実した内容ですね。
返信削除市場ベースのMF(記事の3絡み)と、最貧困層向けのチャリティをベースとするMF(記事の5絡み。少なくともベトナムでわたしが見てきた事例は、MFと従来型援助の組み合わせが一定の効果を上げているように思われました)のギャップをテーマにした論文(昨秋とある学会で報告したネタ)、そろそろ書かないと。。
> まいけるさん
返信削除こう言っちゃなんですが、サブプライム問題も、より効率的な仕組みを造って行くうえでの通過点であり、こういった問題を防ぐために予め頭は使うにしても、それを恐れて手を拱いていては話が進まないのかなー、なんて思ったりしています。
> たけやんさん
個人的にはマイクロインシュランスの成功モデル構築に関心がありますが、一筋縄では行きそうにありませんね。
> K.A.Luckyさん
お世話になっています。論文、楽しみですね。内容の要約でも、ブログの方で拝見させていただく機会があればと期待しております。