2008年10月26日日曜日

社会起業で、高機能自閉症の方のニーズに適合した職場環境を - その4

Thorkil Sonne氏が創ったSpecialisterneでは、トレーニング、オフィス環境、業務プロセス、それにコミュニケーション体制が、高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちの特性にあわせてデザインされています。こうして、高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちが持つ弱点をうまくカバーしつつ、強みを最大限に活かすことで、一般のデバッガーに比べて20%も高いパフォーマンスを発揮することを可能にしています。

このモデルを日本に持ち込もうする際に、私たちが現在着目しているのが車載電子機器・部品の組込みシステムやソフトウェアのデバッグです。
近年では、電気・電子機器の高度化・複雑化と、マイクロプロセッサやメモリの性能単価の下落が進んだ結果、より広範な分野で組み込みシステムが採用されるようになっている。洗濯機、炊飯器、テレビ、ビデオ、デジタルカメラ、プリンタ、コピー機、携帯電話、自動車、自動販売機、券売機など、身の回りにあるほとんどの機械には何らかの組み込みシステムが搭載されているといっても過言ではない。』
このように、組込みシステムや組込みソフトウェアの開発・検証に必要なスキルへの需要は急速に拡大しているのに対して、現在日本では全産業で約10万人の組込みエンジニアが不足しているといわれています。

特にこの問題が深刻なのが、自動車業界です。今や「走るコンピューター」とさえ呼ばれるほど自動車の電子化は進んでおり、車載電子機器・部品が車の製造コストの30-40%を占めています。こうした傾向は今後さらに加速することが見込まれており、組込みエンジニアの確保は業界全体の課題となっています。

私たちはここにチャンスを見出し、自動車業界に特化して、組込みシステムやソフトウェアのデバッグおよび検証を行うビジネスができないかと考えています。とは言え、実は困ったことに、私たちのチームには、自動車業界に詳しい人も、ソフトウェア・エンジニアリングの知識を持っている人もいないため、現在はこれらの業界関係者や自閉症支援専門家の方たちに必死で聴き取り調査をかけているところです。

2008年10月22日水曜日

社会起業で、高機能自閉症の方のニーズに適合した職場環境を - その3

高機能自閉症やアスペルガー症候群を持つ人たちのほとんどは、障害者手帳の交付対象とならないため、これまで雇用支援などの行政による支援の外に置かれてきました。厚労省は、やっと来年度から発達障害者の雇用にも助成金を出す方針を決めたようですが、「大企業は1人当たり年間50万円、中小 企業は1年半で90万円」という額が実際どれほどの効果をもつのかは疑問だと思います。

ほとんどの企業経営者にしてみれば、知的能力が高くても自閉症をもつ人たちについて「不可思議で、取り扱い困難な存在」という程度の認識しかないのが現実でしょうから、
  • 高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちが持つ特有の強みや弱点は何か
  • 彼らの強みをどうすれば活かす事ができ、逆に弱点はどのようにサポートすればよいのか
  • それをすることでどのようなメリットがあり、どのくらいのコストが発生するのか

ということを実例を見て納得してもらわない限り、助成金の果たす役割は極めて限定的になると考えています。

一方慈善団体による自閉症者への援助は、青少年やシニア層を対象としたものが大部分で、成人の場合は知的障害を持つ人に就労機会を提供する共同作業所などの取り組みが細々と行われているだけのようです。これらの活動自体は非常に有益なものだとは思いますが、高機能自閉症やアスペルガー症候群を持つ成人の雇用の問題は、ここでも見落とされがちです。

2008年10月21日火曜日

社会起業で、高機能自閉症の方のニーズに適合した職場環境を - その2

一方、夏休みの間、残ったメンバーで社会貢献価値市場のプロジェクトの今後をどうするか話し合いましたが、どうも意見がまとまりませんでした。主要メンバーの全員が、MBA卒業後は一般企業に一旦就職する(私の場合は元の職場に戻る)予定で、場所もアメリカと日本に分かれることになりますが、私たちのアイデアを実現しようとすると、大変な労力と中長期的なコミットメントが必要になるのは明らかです。この一年間だけでできることとなると、どうにも中途半端になってしまいそうで、議論が行き詰ってしまいました。

そこで思い切って、社会貢献価値市場のアイデアは一度寝かせておくことにして、その間Sさんの起業アイデアの具体化を手助けしようということになりました。私たちがSさんのプロジェクトに魅力を感じた理由としては、以下のような点が挙げられます。
  • 一人息子の将来を案じて、自分で現状を変えていこうとするSさんの思い
  • 障害を持つ人たちを保護の対象として見るのではなく、既製の環境では発揮しきれない能力を持った能動的な存在として捉える考え方と、その実例をつくってみせることによる社会的な波及効果
  • (前回のエントリーへ頂いたコメントにあった言葉を使わせていただくと)「人を組織に当て込むのではなく、組織を人に合わせて作っていく」という発想の逆転
  • 安易に政府や慈善団体の援助に頼らず、できる限りビジネスの視点から自立的で持続可能な解決策を見つけだそうとするアプローチ

そんなわけで、今学期はEntrepreneurship & New Venture Formulationのクラスを通して、Sさんと他の3人の仲間と一緒に、このビジネスプランの策定に専念しています。

2008年10月20日月曜日

社会起業で、高機能自閉症の方のニーズに適合した職場環境を - その1

社会貢献価値市場のプロジェクトを昨年から一緒に進めてきた仲間の一人に、日本人のSさんがいます。今年の6月だったか、その彼から「プロジェクトを抜けようと思っている」という話が出ました。理由をきくと、「高機能自閉症の人に快適な就労機会を提供する社会起業をしたいと考えていて、MBA二年目はその準備に集中したい」とのこと。

Sさんの息子さんは、昨年彼が渡米する直前に自閉症と診断され、現在も奥さんと息子さんは日本にいます。一口に自閉症といっても、症状の現れ方は様々です。一般的には自閉症というと知的障害を伴うイメージが広くいきわたっていますが、知的能力が低くない自閉症者も実は多く(一説には75%)、「高機能自閉症」とか「アスペルガー症候群」といわれます。この二つの厳密な区別は難しいのですが、Sさんの息子さんもそうしたケースです。

こうした人たちは、健常者と比べて全く遜色ない知的能力を持っていても、対人コミュニケーション能力が弱いなどの自閉症特有の困難を抱えているために、多くの職場では受け入れられず、失業率がとても高いのが現状です。

しかし、デンマークにあるSpecialisterneという会社では、高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちが持つ「繰り返し作業で発揮する高い集中力」、「微細な異変・異常を感知する鋭敏性」、「几帳面さ」といった能力を積極的に活用して、マイクロソフトやオラクルなどのソフトウェア会社からデバッグ業務を受託するサービスを提供し、ビジネスとして成功しています。実は、CEOのThorkil Sonne氏の息子さんも高機能自閉症で、彼らが生産的に仕事をできる職場を創りたいという思いから、Specialisterneを興したそうです。

SさんもSpecialisterneのモデルを基に、日本で会社をつくることはできないかと考えていました。

2008年10月18日土曜日

リスの救出作戦

自転車で帰宅途中、道端のゴミ箱から「カリカリ」という音がするのに気づいた。
不審に思って自転車を止めてみると、ゴミ箱から上体が生えたような異様な姿で、リスがもがいていた。
どうやらゴミ箱をあさった後、側面に空いた穴から出ようとして、下半身が引っかかって身動きができなくなってしまった様子。そのまま放置しては、猫か何かに襲われてしまうことになるだろうと思い、助けてやることにした。
ゴミ箱を開け、自宅から持ってきたホウキの柄でお尻を押してやるが、びくともしない。
「押してだめなら引いてみよう」ということで、ゴミ箱を倒し、頭の方から押してやる。
リスが散々もがいた末に、するっとゴミ箱の中に姿を消した。
無事解放されてメデタシ、メデタシ。

2008年10月15日水曜日

MBA二年目 秋学期の授業

今学期は、アントレ関連の授業を、意識的に多く取っています。
  • Entrepreneurship & New Venture Formulation: 学生同士でチームを組んで、自分たちのアイデアを元に、実際にビジネスプランを書くクラス。ここから巣立って実際に起業した卒業生も多い。社会起業の例としては、2006年卒のAndrew Younが設立したOne Acre Fundなんかがあります。
  • Entrepreneurial Finance: 起業家が実際に直面する様々なシチュエーションで使える実践的なファイナンスを学ぶクラス。
  • Business Law for Entrepreneurs: 教鞭を取る現役敏腕弁護士が、「ビジネスローについて、自分のクライアントになる起業家には、是非知っておいて欲しい知識をぎっしりつめこんだ」という授業。同級生の弁護士さんによると、「アメリカのビジネスローを学んでおけば、9割がたの内容は日本でも通用する」ということらしいので取っています。
  • Services Marketing and Management: 私が起業をするとすれば、多分(広義での)サービス業でということになるだろうと思い、取ってみました。前評判もなかなか高く、 伝統的な「モノを売るビジネス」と、「サービスを売るビジネス」では、マーケティングの仕方がどのように異なるのか、という疑問に答えが見出せるかな、と 期待していたのですが、今のところはどうもイマイチ。どっかの誰かが考えた理論的フレームワークを寄せ集めて、その表面を軽くなでておしまい、という感じで、議論の深みとか知見の鋭さにうならされることがない。
  • Values and Crisis Decision Making: 秋学期始めの一週間の集中講義で、二年生の必修クラス。実際に仕事をしていると、危機管理に関して腰を据えて考える機会というのはほとんど無いので、大変興味深かったです。
  • Science Boot Camp: バイオテック入門といった内容の、単位ゼロの特別講義。毎週二時間、専門用語の嵐にさらされています。

2008年10月13日月曜日

シカゴマラソン

サンフランシスコで故障した膝が完治せず、全く練習できないままシカゴマラソン当日をむかえてしまいました。一応出走するも、案の定5マイルも走ると左膝が疼き始め、結局10マイル地点でリタイア。
当分マラソンは諦めたほうがよさそうです。何か膝への負担が軽い運動を探さないと。