11/13-15にフィラデルフィアで開催されたNet Impact Conferenceに行ってきました。
ビジネススクールに通う学生の中で社会問題やノンプロフィット活動に関心のある人たちがクラブを作り、各校のそうしたクラブのネットワークとして1993年に生まれたのがNet Impactです。今ではビジネススクール以外の大学院生や学部生、それに社会人まで加わり、メンバー数は1万人以上にのぼります。支部も世界中に広がっていて、日本にも支部があります。
日本ではビジネススクールというと、なんだか個人的な金儲けや栄達にだけ関心がある人が行く所で、社会問題の解決や公共善の増進などとはやや縁が薄い存在なんていうイメージで受け取られがちです。しかし実際には、ビジネススクールの学生のこうしたイシューへの関心はとても高く、ケロッグでもSocial Impact Club(Net Impactの支部)はConsulting ClubやFinance Club等と並び、学内最大規模のクラブの一つになっています。
フィラデルフィア土産、Liberty Bellのミニチュア
今年のテーマは“The Sustainable Advantage: Creating Social and Environmental Value"。Room to ReadのCEOのJohn Woodや、World Wildlife FundのCEOのCarter Roberts等による基調講演のほかに、
- Corporate Social Responsibility
- Energy and Environment
- International Development
- Social Impact Finance
- Social Entrepreneurship
という5つのトピックに関連した多種多様な分科会が開かれました。分科会の数が多すぎて、全てを覗くことはとてもじゃないけど不可能ですが、私が参加した中から感想をいくつか。
- 一番印象に残ったのは、Mission MeasurementのCEOのJason Saulさんによるワークショップ。彼は、私が現在board memberとして参画しているCenter for What Worksのco-founderでもある。「単に漠然と社会のためになることをするというCSRは、もはや過去の遺物("CSR is dead")でしかなく、今後はCEOが追っている経営指標に対してどのような効果があるのかを示すことができるようにならなくてはならない」という彼のメッセージは、今まで聞いたどんなCSRに関する話よりも私の腑に落ちた。ポーターの言う「戦略的CSR」を、抽象論からオペレーショナルなレベルに落とし込むためには、彼らが勧めるようなファクトベースのマネジメントアプローチが必要になるのだろう。
- ソーシャルビジネスを制度面で支援する動きが、加速度的に活発になっている。Low-profit Limited Liability Company (L3C)という新しい法人形態が今年の4月にバーモント州で初めて採択され、非営利組織でなくても財団からのProgram Related Investment (PRI)が受けられるようになった。B Labを中心とするソーシャルビジネスの連合体もプレゼンスを高めていて、B Corporationの法制化を目指している。 近年政府がソーシャルビジネスに対する積極的な支援策を次々と打ち出している英国に比べ、米国は制度面でやや出遅れている感があるため、オバマ新大統領に対する期待は高い。
- 今年のオーガナイザーがファイナンスに強いWharton Schoolだったせいもあってか、昨年よりややファイナンス絡みの話題が多かった気がする。
- 社会資本市場への関心が、昨年より格段に高まってきているのを感じた。ムハマド・ユヌス氏が2006年ノーベル平和賞の受賞スピーチや『Creating a World Without Poverty: Social Business and the Future of Capitalism』で言及したことによる効果が大きいようだ。彼が言っていることは特に画期的でもなんでもないが、影響力は絶大。B Labの創始者のJay Coen GilbertさんやBart Houlahanさんと話をした時に教えてもらったMission Marketsなど、新しい取り組みがそこら中で始まっている。ただ、みんなソーシャルビジネスのための株式市場を考えている。個人的には、「ソーシャルビジネスに注目するあまり非営利組織のニーズを見過ごしてしまっているが、それでよいのだろうか」、「ソーシャルビジネスにしても本当に株式市場が最適解なのだろうか、株式以外の資本の方が少なくとも現段階では有効なのではないか」、という疑問が残る。
- Wharton Social Stock Exchangeというシミュレーションに参加したが、完全に期待はずれ。シミュレーションのインターフェースはなかなか洗練されているが、単なる普通の株式市場に、企業活動の社会的側面に関するニュースが流れてきて、それに市場参加者がどう反応するかをみるだけのもの。肝心な「既存の資本市場で扱うことができないでいる社会的価値という外部性をどう内部化するか」という問題に関して全く答えておらず、"Social Stock Exchange"の名に値するものではないと思った。