2009年5月9日土曜日

問題解決のスケールとスピード

昨日シカゴ大で開かれたChicago Microfinance Conferenceに参加してきました。


オープニングはSKS Microfinanceの創業者にして会長のVikram Akula氏。営利事業化が進展しているマイクロファイナンスの世界で、ビジネスの手法を積極的に持ち込んで近年急成長を遂げているSKSは、業界の風雲児的存在です。トレーニングはマクドナルドのやり方から、支店展開とそのマネジメントはスターバックスのやり方からそれぞれ学び、マイクロファイナンスのビジネスモデルにとって要となるローンオフィサーの業務効率化のためにユーザーフレンドリーなITシステムを導入しています。また、地方の貧困層との接点を有効活用して、マイクロファイナンス以外のサービスや商品をクロスセルする計画もあるそうです。

彼が何より強調していたのが、問題解決のスケールとスピード。曰く、「ユヌス氏のグラミン銀行は現在800万人弱の人にマイクロファイナンスのサービスを提供しているが、このスケールに到達するまでに30年かかった。すばらしい実績だが、彼らマイクロファイナンス第一世代の経験から学んだ我々は、彼らと同じ事をするのではなく、さらに一歩先に進めなくてはならない。今なお世界中にはマイクロファイナンスのサービスが行き届かない貧困層の人々が30億人いる。第一世代のマイクロファイナンスと同じペースでやっていては、100年かかってもこの人たち全てにサービスを提供することなんてできない。そのためにはチャリティ資金にだけ頼っていてはだめで、商業資本も導入し、また業務プロセスやテクノロジーも最先端のものを使いこなさなくてはならない。」

一方で、スピードを追求することの弊害にも配慮が必要としており、特にボトルネックになりそうな要注意事項として、①人材の量と質、②ITシステムのキャパシティとデザイン、③マイクロファインナンスの商業化に対する一般の認識、世論、政治、といった点を挙げていました。


昼食時に出席したMicroPlaceのCFOのPaul Bryth氏によるプレゼンも興味深いものでした。よく対比されるKivaは個人が個人にお金を貸すP2Pのモデルで、利息はゼロなのに対し、MircroPlaceの場合はMFI(マイクロファイナンス機関)が発行する債券を個人が購入するモデルで、ちゃんと利息ももらえます。また、Kivaが非営利組織であるのに対し、MicroPlaceはeBayの子会社で営利企業です。

備忘録として、MicroPlaceに関していくつかポイントを書き留めておきます。

  • MicroPlaceが徴収する手数料は、債券額面の1%で、MFIが負担
  • 規模の経済が効くビジネスモデルなので、迅速に十分なスケールに到達できるかが成否の鍵
  • 今年の第一四半期も取引高増加、第二四半期もさらに加速中で、不況下でも成長を続けている。株式市場などの既存市場が落ち込む中で、利息に魅力を感じて新規ユーザーになるケースが多いと思われる
  • MicroPlaceは個人(債券購入者)とMFI(債券発行者)が直接取引できる場を提供するのみで、為替リスクはMFIが、信用リスクは個人が負う(2007年創業以来、今のところ債務不履行の事例はゼロ)
  • 利用者は高学歴、高収入層に集中。40歳以下が50%、男性53%
  • 現在手がけている発行市場(primary market)だけでなく、流通市場(secondary market)も将来は立ち上げたいと考えているが、現行の規制では不可能。今のところは現事業の拡大で手一杯で、発行市場立ち上げのため規制改正の働きかけなどの具体的な取り組みは特にまだ始まっていない

午後の基調講演は、ACCION Internationalの元CEOとしてメキシコのCompartamosのIPOにも関わったMichael Chu氏。CompartamosのIPOについて批判的な立場を取っているユヌス氏とは、激しい論争を繰り広げてきている人物です。

「貧困という途方も無く大きな問題を、軽減することに留まらず、根絶しようということを本気で考えた時には、拡張可能性(スケール)、持続可能性、継続的イノベーション、そしてスピードを伴った問題解決が必要になる。これら四つの条件を満足させるには、ビジネスというメカニズムを活用することが有効である」というのが、彼の主張の要旨です。

確かに、このスケールとスピードというのは、小さくてもいいからゆっくり良いものを育んでいこうという傾向が強い従来のノンプロフィット的アプローチが不得手とする部分です

ただ、スケールとスピードのためには、何もかも商業化する必要がある訳ではありません。例えば、ジョンウッド氏のルーム・トゥ・リードは、寄付金に依存して途上国で学校を建設するという従来の非営利のビジネスモデルと何も変わらないものですが、マネジメントやマーケティングにおいてビジネスの手法をうまく導入し、目覚しいスケールとスピードを達成しています。

特に日本では、スケールとスピードを追求するという意識がビジネスにおいても比較的弱いので、社会起業を志す人たちは、より大きなスケールで、より迅速に、しかも本当に根本から問題を解決するには何が必要かを極めて意識的に考える習慣を自らに課す必要があると思います。

4 件のコメント:

  1. マイクロファイナンスに代表されるビジネスは

    たとえば 源流から本流と流れ 最後に海へ出る瞬間までを捉えてないと感じるんです。

    良いことで進むべき形であるが その次世代または他人にたいしては 影響がない 寸切れる状態に思えます。

    マイクロファイナンスを債権化し スケールアップによるスピードを確保すれば、結果的に個人間取引の争いが見える気がします。

    自由なビジネス展開は大切であるが、ある意味市場性を持たせるなら連続性を持つ形が良いと思います。

    貧困層の人に持つべきビジョンを掲げる必要性があるとおもいます。

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  2. グリーンマネーのような、資本家が沢山投資してくれるといいんですけどね。
    不況下で伸びているとはすごいことです。
    でも、ここまで来るのに30年とはかかりすぎですね。
    スピードをあげるのは、結構難しいかも。
    全ての人を救わなくてもいいから、地道に堅実にやってほしいです。

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  3. > dondonさん

    「源流から本流と流れ 最後に海へ出る瞬間までを捉えてないと」とおっしゃるのは、巨大で複雑な問題の包括的な解決策を提供していない、という意味と捉えてよいでしょうか?マイクロファイナンスを評価するあまり、これが貧困撲滅の万能薬であるかのように言う人たちがいますが、それは確かに間違っていると思います。

    ただ、万能薬を探す必要はない(と言うより、そんなものはどこにもない)わけですよね。市場の力を利用したアプローチには強い効果がある分、副作用や弱点もありますから、うまく状況によって使い分けるなり、これを補完できるように他の様々なアプローチと組み合わせて用いるなりする必要があるのでしょう。

    > scorpioさん

    マイクロファイナンスには商業資本がどんどん入ってきていて、例えばベンチャーキャピタルで有名なセコイアキャピタルはSKSにも投資していますね。

    私も自分自身の傾向としては「地道に堅実に」という方ですが、本当に貧困にあえいでいる人々の身になってみれば、そんな悠長なことも言っていられないと思っています。「より多くの人に、より迅速に」という課題を自らにあたえ、思考をストレッチしなくては、真に創造的かつ効果的なやり方をいうものは生まれませんので。

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  4. 富と発展が貧困を解決するわけではないことが重要ではないでしょうか?

    富や、発展のために、投資する。貴方が分かっているように、矛盾があります。投資した場合、双方にリターンを生み出せる経済が必要になるし、将来にリスクをもっていったとして、発展途上国に中期的可能性があるのか?という疑問があります。ただし、途上国の内需が伴っていない場合、自由主義政策で、解決されるとは思っています。

    私は、もし投資するならば、障害者ではなく、障害者を救えるコミュニティに投資します。

    人間の利己的欲求。現在の人間がもつ、自己顕示欲、地位よく、権力欲、金の欲求、その優越感は、コミュニティに投資すると考えた方が合理的です。

    皆さんおやっていることは、まずは一つの国への投資での、世界の構築のプロモーションではないですか?仮想でもいいです。成り立つ国を作ることだと思います。

    最後に、貴方の活動の価値のある部分は。労働価値を覆すことだと思います。

    発展を生み出すものが労働、それに対する対価、ではなく、地球規模の何かしらの安定や、発展のための労働です。マルクスの言っている資本主義の課題点の一つです。

    労働とは何か?なぜ貧困層の労働が、他の国の労働より下回るか_?先進国の労働とは?先進国の富のための、マイクロファイナンスとは何か?とまで行きつきます。

    私は、現在の富が価値を失い、労働が、国関係なく、労働者に人間の価値を与えられることを望んでいます。

    日本の労働が。日本の労働者への富でなく、世界の富として、均一の生活を与える。この概念を作りだせるマイクロファイナンスがあれば、私は賛同しますね。ぜひ、投資したい。投資とは、先進国の成り立ちではなく、世界規模の安定のバランスなのだという労働観を生み出せたら、報告ください。

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