オープニングはSKS Microfinanceの創業者にして会長のVikram Akula氏。営利事業化が進展しているマイクロファイナンスの世界で、ビジネスの手法を積極的に持ち込んで近年急成長を遂げているSKSは、業界の風雲児的存在です。トレーニングはマクドナルドのやり方から、支店展開とそのマネジメントはスターバックスのやり方からそれぞれ学び、マイクロファイナンスのビジネスモデルにとって要となるローンオフィサーの業務効率化のためにユーザーフレンドリーなITシステムを導入しています。また、地方の貧困層との接点を有効活用して、マイクロファイナンス以外のサービスや商品をクロスセルする計画もあるそうです。
彼が何より強調していたのが、問題解決のスケールとスピード。曰く、「ユヌス氏のグラミン銀行は現在800万人弱の人にマイクロファイナンスのサービスを提供しているが、このスケールに到達するまでに30年かかった。すばらしい実績だが、彼らマイクロファイナンス第一世代の経験から学んだ我々は、彼らと同じ事をするのではなく、さらに一歩先に進めなくてはならない。今なお世界中にはマイクロファイナンスのサービスが行き届かない貧困層の人々が30億人いる。第一世代のマイクロファイナンスと同じペースでやっていては、100年かかってもこの人たち全てにサービスを提供することなんてできない。そのためにはチャリティ資金にだけ頼っていてはだめで、商業資本も導入し、また業務プロセスやテクノロジーも最先端のものを使いこなさなくてはならない。」
一方で、スピードを追求することの弊害にも配慮が必要としており、特にボトルネックになりそうな要注意事項として、①人材の量と質、②ITシステムのキャパシティとデザイン、③マイクロファインナンスの商業化に対する一般の認識、世論、政治、といった点を挙げていました。
昼食時に出席したMicroPlaceのCFOのPaul Bryth氏によるプレゼンも興味深いものでした。よく対比されるKivaは個人が個人にお金を貸すP2Pのモデルで、利息はゼロなのに対し、MircroPlaceの場合はMFI(マイクロファイナンス機関)が発行する債券を個人が購入するモデルで、ちゃんと利息ももらえます。また、Kivaが非営利組織であるのに対し、MicroPlaceはeBayの子会社で営利企業です。
備忘録として、MicroPlaceに関していくつかポイントを書き留めておきます。
- MicroPlaceが徴収する手数料は、債券額面の1%で、MFIが負担
- 規模の経済が効くビジネスモデルなので、迅速に十分なスケールに到達できるかが成否の鍵
- 今年の第一四半期も取引高増加、第二四半期もさらに加速中で、不況下でも成長を続けている。株式市場などの既存市場が落ち込む中で、利息に魅力を感じて新規ユーザーになるケースが多いと思われる
- MicroPlaceは個人(債券購入者)とMFI(債券発行者)が直接取引できる場を提供するのみで、為替リスクはMFIが、信用リスクは個人が負う(2007年創業以来、今のところ債務不履行の事例はゼロ)
- 利用者は高学歴、高収入層に集中。40歳以下が50%、男性53%
- 現在手がけている発行市場(primary market)だけでなく、流通市場(secondary market)も将来は立ち上げたいと考えているが、現行の規制では不可能。今のところは現事業の拡大で手一杯で、発行市場立ち上げのため規制改正の働きかけなどの具体的な取り組みは特にまだ始まっていない
午後の基調講演は、ACCION Internationalの元CEOとしてメキシコのCompartamosのIPOにも関わったMichael Chu氏。CompartamosのIPOについて批判的な立場を取っているユヌス氏とは、激しい論争を繰り広げてきている人物です。
「貧困という途方も無く大きな問題を、軽減することに留まらず、根絶しようということを本気で考えた時には、拡張可能性(スケール)、持続可能性、継続的イノベーション、そしてスピードを伴った問題解決が必要になる。これら四つの条件を満足させるには、ビジネスというメカニズムを活用することが有効である」というのが、彼の主張の要旨です。
確かに、このスケールとスピードというのは、小さくてもいいからゆっくり良いものを育んでいこうという傾向が強い従来のノンプロフィット的アプローチが不得手とする部分です。
ただ、スケールとスピードのためには、何もかも商業化する必要がある訳ではありません。例えば、ジョンウッド氏のルーム・トゥ・リードは、寄付金に依存して途上国で学校を建設するという従来の非営利のビジネスモデルと何も変わらないものですが、マネジメントやマーケティングにおいてビジネスの手法をうまく導入し、目覚しいスケールとスピードを達成しています。
特に日本では、スケールとスピードを追求するという意識がビジネスにおいても比較的弱いので、社会起業を志す人たちは、より大きなスケールで、より迅速に、しかも本当に根本から問題を解決するには何が必要かを極めて意識的に考える習慣を自らに課す必要があると思います。