2009年4月26日日曜日

C.K. プラハラード

人の頭の中にあるアイデアやコンセプトの本質を掴みとるのはなかなか難しいもので、著書やウェブサイトを通してその人のやっている事、考えている事を分かったつもりでいても、実際に会って話を聞いてみると、特に新しい情報が加わったわけではないのに、「あぁ、要はそういうことなのね」と、一皮剥けた理解ができるようになることがあります。

昨年Kivaの共同創業者の一人のJessica Jackley Flanneryさんに会ったときや、今年一月にRoom to Readの創業者のJohn Wood氏(因みに彼はケロッグの卒業生)の話を聞いたときが、そうでした。


世界屈指の経営学者で、"core competence"とか"BOP (the bottom of the pyramid)"といった言葉の生みの親として知られるミシガン大学のC.K. プラハラード教授の著書を読んだときも、今ひとつなんでこの本がそんなに話題になっているのか理解できませんでしたが、先週彼の講演を聞いて、その考え方が腑に落ちた気がします。

その講演を聞きながら私がメモをした中から、いくつか抜書きしてみます。

  • 2022年のインドはどんな国になることができるだろうか?ここで「どうすれば」という問いを気にしてはいけない。目標の前に手段を考えては、ポテンシャルを最大限に発揮することは不可能だ。
  • 起業家に必要なのは、想像力、勇気、そして情熱だ。リソースを集め活用できる才覚はもちろんだが、現在のリソースの制約を乗り越えて何かを成し遂げようとする野心も起業家には求められる。
  • ビジネスが、イノベーションや顧客開拓の努力によって、貧困層にも市場経済の仕組みが貢献できるようにする必要がある。これまでのイノベーションは、先進国の富裕層が持つニーズを満たすために開発され、その恩恵が徐々に発展途上国や貧困層にもこぼれ落ちてくるものだった。しかしこれは、もう一つの大切なイノベーションの機会を見逃している。今後は、発展途上国の貧困層が持つニーズに応えるイノベーションを起こすことで、先進国や富裕層向けのビジネスにおいてもユニークな競争優位を得ることが可能になる。
  • 貧困層への市場経済の普及が環境に与える影響についての質問に答えて) 現在の市場経済におけるやり方が持続可能でないからといって、市場経済から排除されている貧困層が市場に参加し利益を享受することを阻むのではなく、その現在のやり方自体を変えるべきだ。その方法はいくらでも工夫のしようがある。
最近インドのタタ・モーターズが30万円という衝撃的な低価格自動車ナノを発売したことを受けて、一部のエコロジストの間には懸念を表す人たちがいますが、最後に挙げたプラハラード教授のポイントは、そうした意見に対する反論として説得力があると思います。

2009年4月24日金曜日

行政やメディアとソーシャルビジネスの距離感

オバマ政権になってホワイトハウスにOffice of Social Innovationが新設される動きになっているという話題を、以前にこのブログでも取り上げましたが、先週これについて正式な発表があり、Google.orgのSonal Shah氏がこの新しい部署を率いることになりました。(The Chronicle of Philanthropyの記事によると、国内政策全般の調整を行うDomestic Policy Councilの下に設置されるそうなので、前回書いた「大統領直属」って言い方はちょっと間違いでしたね。)

では日本は、というと経産省がソーシャルビジネスの振興に取り組み始めています。先月ソーシャルビジネス全国フォーラムを開催し、「日本ソーシャルビジネス宣言」なるものを採択しましたが、これからどうなりますことやら。経済産業省が実施しているソーシャルビジネス/コミュニティビジネスの推進施策ってのを見てても、決して意図が間違ってるとは思わないけれど、どうもいかにもいつものお役所仕事の延長線上で、無難で実効性のないことにお金を使ってるなという印象を受けます。少なくとも、どうしたら本当に日本でソーシャルビジネスが活性化されるのか、真剣に深く考えた結論として出てきた施策とはちょっと思えないんですよね。

まぁ、でもあまり経産省のやってることに文句をつけても仕方ないのかな、という気も。 ソーシャルビジネスをリードする側が着々と実績を積んで実力をつけ、ソーシャルビジネスの発展には何が必要か、行政が担う役割は何か、ということをしっかり提言するようになるまでは、下手に官僚に主導権をとられてもうまくいかないと思うので。

日本では、特に社会福祉や公共善といった話になると、「お上」に何かやってもらおうという意識がどうしても強いように思いますが、ことソーシャルビジネスや社会起業に関しては、行政の力をうまく利用できる実力をつけるまで、つかずはなれずの微妙な距離感(arm's length relationship)を保つ必要があると思います。

因みにこれは、メディアとの関係についても言えることじゃないでしょうか。もちろん、社会起業家やソーシャルビジネスは、メディアをうまく活用する必要があることは言うまでもありません。ただ、日本の「社会起業」とか「ソーシャルビジネス」というものを語っている側の間でもそれが何のことを指しているのか不明瞭で、まだ内実が伴わないうちに下手に注目だけ集めると、有象無象が群がり収集のつかないことになってしまう危険があります。

アメリカの例を見ていても、メディアが注目し始めた頃には、しっかりとした実績をもった成功例が数多くあり、明確なビジョンを持ってメッセージを主体的に発信できる態勢がある程度整っていましたが、日本ではまだ成長段階がそこまで至っていませんので、あまり世間の注目を集めることに躍起にならない方がいいでしょう。

ましてやアメリカに比べて、財団などのサポート基盤や、民主導のソーシャルイノベーションや起業家精神に関する一般の理解といった環境が整っていない中で、日本のソーシャルビジネスには、より戦略的に業界全体を育てていくという思考が求められると思います。

2009年4月23日木曜日

無念!

みなさんに応援いただいていたDell Social Innovation Competitionでしたが、残念ながらKAIENの決勝進出はならず。ご投票いただいた方々には申し訳ない結果となってしまいました。

でもまぁ、フィードバックはもちろん参考にするにしても、結果については、勝負は水物だから仕方ないとスッパリ気持ちを切り替えて、実際の立ち上げに向けてCEOのSさんを中心に頑張っていきます。

これからも是非とも応援よろしくおねがいいたします!

2009年4月19日日曜日

KAIENがTulane Business Plan Competitionで優勝しました!


昨年このブログでも、高機能自閉症の人たちの強みを活かしてB2Bでソフトウェアテストのサービスを提供する社会起業について何度か書きましたが、その後CEOのSさんの八面六臂の大活躍で、来年の本格的な立ち上げに向けて、どんどん準備が進展しています。詳しくは、こちらのKAIENホームページをご覧ください。

そんな中、昨夜Tulane Business Plan Competitionの社会起業部門の決勝で、KAIENがClean India (バージニア大)PolicyPitch.com (チューレーン大)をおさえ、優勝賞金2万ドルを獲得したという朗報が舞い込みました。
私自身は、決勝プレゼンがウォーレン・バフェット氏とのミーティングと同じ日だったので、残念ながら大会会場でSさんと喜びを分かち合うことはできませんでした。

自信を持って臨んだGlobal Social Venture Competitionでは、準決勝敗退という結果に終わりやや落胆していただけに、今回の勝利は私たちのチームにとって大きな弾みになりそうです。この勢いで、もう一つ参戦しているDell Social Innovation Competitionでも決勝に駒を進めたいもの。

このブログの読者の方の中には、同コンペティションの一次で投票してくださった方も多いかと思いますが、100チーム中3チームに絞られる準決勝でも、審査員団の評価の際に一般投票による得票数が考慮されますので、是非こちらの投票の手順をご参照の上ご協力のほどお願いいたします。(一次での投票結果は白紙に戻され、準決勝のため改めて投票していただく必要があります。。)準決勝投票の〆切は4月21日(日本時間では22日午前7時)と目前に迫っていますが、得票数で苦戦していますので、ご友人、お知り合いにもお声をかけていただけるとありがたいです。

2009年4月18日土曜日

「オマハの賢人」とのツーショット

「オマハの賢人」の愛称で知られるウォーレン・バフェット氏に会う機会があり、ネブラスカ州はオマハに行ってきました。



先月のミット・ロムニー氏との座談会の時と同じようなプロセスで、希望者の中から書類選考によって我が校から27人の学生が選ばれ、オマハで他校(シカゴ大、コロンビア大、MIT、他3校のビジネススクール)からやってきた学生たちと合流しました。

ご承知の通り、バフェット氏といえば米フォーブス誌による世界長者番付でビル・ゲイツに次ぐ2位の大富豪で、投資家の神様みたいに扱われている人物ですが、実際に会ってみると、一見素朴で実直な好々爺といった風情で、例えばレストランとかで隣に座ってても、ちょっと気付かないかもしれないと思われるほど。入ってきた途端に部屋中にカリスマがみなぎるようなミット・ロムニー氏とは対照的で、その辺りが、他の人に一目置かれてなんぼの政治家に転身して成功したビジネスマンと、我が道を行く投資理念と経営手腕だけを頼りに莫大な富を築いたビジネスマンの違いなんでしょうか。

でも話しはじめると、冴え渡る知性と円熟した知恵がほとばしり、さすがに一代で世界の経済界の頂点に登りつめた人物だなと納得。その中からいくつか心に残ったバフェット氏の言葉を紹介しましょう。

  • 「もしも25歳に戻ることができたとしたら、何をするか?」という質問に対して) 現実の人生でしたことと特に変わらないことをするだろう。人に雇われず(work for myself)、自分の好きな仕事をできれば(do what I love)それで良い。
  • 自分がうまくやってると思えることをできていればそれで幸せで、財産の桁が増えることなんて大切じゃない。(I was happy doing what I was doing as long as I felt successful, and the number of zeros didn't really matter)
  • 私がやっていることをするのには脳味噌はあんまり必要ない。もしもIQが130以上ある人は、超過分を誰かに売ってしまっていい。投資に重要なのは自分の頭で考える能力、それに必要な程度の知性、そして何より大事なのが近視眼にならないでいられる気質(temperament)だ。
  • 短期投資で勝てる方法を私は知らない。私は、勝ち方が分かっている自分のゲームで戦う。(I don't know how to win in short-term investments. I play my own game that I know how to win.)
  • 自分の子供達に各々の財団を用意した後、自由にやらせ一切運営や活動内容に口出しはしなかった理由として) フィランソロピーってのは長期で考えなくてはならず、2-3年で結果についてどうこう言えるものではない。
  • 環境の問題は深刻だ。既存の市場システムに手を入れて、未来の世代へのコストを勘案する(modify the market system to take into accout future costs)ようにしないといけないが、問題はそのやり方だ。いずれにしろ、人々に自己利益に反する行動を取らせるのは極めて難しい。私がオバマに投票した理由の一つは、彼はこの問題をより良く理解していて、人々が理解できるように説明し、説得する能力があると思ったからだ。
  • 「将来どの産業が発展すると思うか?」という質問に対して) 20年-30年後を見通して、どの産業が発展するか言い当てることは不可能に近い。インターネットがどれだけビジネスに影響を与えるか、95年当時ビル・ゲイツ等と話し合った時には誰も想像がつかなかった。ただ言えるのは、人間は人間の潜在能力をより良く活用できるシステム(system that unleashes human potentials)を生み出し続けてきたし、今後もそうし続けていくだろうということだ。

機知とユーモアに富んだ応答で、2時間余りにおよんだミーティングの時間はあっという間に過ぎていきました。昼食は、バフェット氏が長年通っているというPiccolo Pete's Restaurantで、彼の奢りでステーキをご馳走になりました。

その後、なんと参加した学生一人一人とツーショットでの写真撮影というサービスぶり。もちろん彼にとって一銭の得にもならないのに、いやな顔一つせず、200人近い学生と茶目っ気たっぷりに色んなポーズでの写真撮影のリクエストに応じる姿には感嘆させられました。信じがたいほど気さくな方で、人と接するのを心底楽しんでいらっしゃる様子でした。いやー、ほんと頭が下がります。

2009年4月7日火曜日

ビジネスウィーク誌が選ぶ『アメリカの最も有望な社会起業家』

米ビジネスウィーク誌が選ぶ『アメリカの最も有望な社会起業家 (America's Most Promising Social Entrepreneurs)』25組が発表されました。

友人のSara OlsenさんとBrett GalimidiさんSocial Venture Technology Group)が選ばれたと聞き、チェックしてみたところ、Microfinance International Corp.のCEOにして日本人初のアショカグローバルフェローの枋迫篤昌氏も入選していました。

今回発表された25組から、4月26日までの一般投票でトップ5組が選ばれるそうなので、是非応援しましょう!

2009年4月3日金曜日

ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事のオーラ

昨年の米大統領選では、私もご多分にもれずオバマ氏を応援していましたが、同時に予備選の段階で個人的な理由により密かに注目していたのが、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事です。

英エコノミスト誌をして"a scarily perfect presidential candidate (恐ろしいほど完璧な大統領候補)"とさえ言わしめた彼は、
  • キリスト教徒から異端とみなされるモルモン教徒である
  • 党内では穏健派とみなされている(予備選では不利)
  • 全国的知名度が他候補(マケイン、ジュリアーニ)に比べて劣る
という3つの大きなハンディキャップを抱えていたにも拘らず、昨年の共和党指名候補争いで大健闘しました。結局マケインに敗れたものの、すでに次の大統領選の有力候補としても注目されています。

ベイン・アンド・カンパニーの元CEOにして、ベイン・キャピタルの共同創業者でもある彼の経済・財政政策の手腕は高く評価されており、今の経済危機がもう少し早めに火がついていたら、あるいはダークホースのハッカビーが予備選序盤であれだけ躍進していなかったら、オバマはともかく、マケインには勝てた可能性が十分にあったのではないかと思います。

そんな彼から、つい数週間前に、「ビジネススクールの学生と、現在の経済危機について話をしたい。大人数相手の一方的な講演ではなく、少数の学生と膝をつめて率直な意見交換をしたいのだが」というリクエストがケロッグに来ました。希望者の中から書類選考で選ばれた25名の学生のグループの中に、運良く私も入ることができ、一昨日彼とのラウンドテーブル・ディスカッションに参加しました。

一応オフレコのミーティングということになっているので、話した内容はあまり詳しく書けませんが、経済危機への対策に関する話を中心にしつつも、時に冗談や裏話などを交えながら、終始楽しく和やかな雰囲気の中、議論がはずみました。

彼に会って考えたのは、「人間の器」というもの。ちょっと失礼な話ですが、随行していた(普段はそれなりに立派に見える)我が校の教授も、彼の隣に座ったとたんに、相対的に貧相で卑小に見えてしまいました。

あの違いは何なんでしょう。実績に裏付けられた自信とか、知性とか、ましてや単純にルックスの良さとか、そういったことだけでは到底説明できそうにない。

「オーラからして違う」というのはこういうことかと、実感。良い刺激を一杯受けました。

メディアでは、しばしば彼は「やり手だが、面白みのない堅物の優等生」というイメージで描かれることが多いように見受けられますが、実際に会ってみて、とても知的で説得力があるだけでなく、強いカリスマ性と誠実さ・人間的魅力も兼ね備えている人物だという印象を新たにしました。

いつか彼のような、柔らかく、澄んでいながらも力強いオーラを発する人間になりたいものです。