先月、『「社会貢献価値」取引と排出権取引の違い』 というエントリーで、HIP InvestorのCEOのポール・ハーマンから聞いた話として、「排出権市場で「社会貢献価値」も取引できないかというプランを構想している人たちがいるそう」だと書きました。
排出権取引には大きく分けて、強制的アプローチ(Mandatory approach)と自主的アプローチ(Voluntary approach)の二種類があります。国際条約や国内法で、あらかじめ温室効果ガスの排出上限を設定した上で、その過不足を排出権の形で融通する、いわゆる「キャップ・アンド・トレード」と言われる仕組みは、強制的アプローチに入ります。先月のエントリーで書いたとおり、このアプローチにおいては、取引される「排出権」という実体のないものに価値を与えているのは、政府の強制力であり、私達の考えている「社会貢献価値」取引とは、全く性質が異なります。
2週間ほど前にサンフランシスコでポール・ハーマンと再会した際に、もう一度この話題が出たのですが、このプランを考えている人たちは、どうも自主的アプローチの方により関心を持っているようです。こちらは、最近日本でも聞くようになってきたカーボン・オフセットのように、誰かに強制されることなく、ひとえに本人の意志によって、二酸化炭素削減のための努力にお金を出すものです。
実はこの自主性に基づいた取引の仕組みは少しずつ広がっています。Ecosystem Marketplaceなどを見ると、「生態系の多様性保全」といった成果の定量化が難しいプロジェクトも取引の対象になっています。「生態系の多様性保全」という価値が取引できるならば、「貧困の削減」だとか「教育の改善」といった価値だって取引できるはずだ、と考えている人たちが出てきているのは当然の流れと言えるでしょう。
ただ実態をよく見てみると、自主的アプローチにより行われているこれらの取引は、いまだに多くの問題を抱えており、それは結局、現在ソーシャルセクターが直面している問題と五十歩百歩と言わざるを得ません。
- 価値を測る基準がバラバラで、当事者は毎回の取引ごとにこれをよく吟味する必要がある (High transaction cost due to no valuation standard)
- 取引によって買われた成果が実現されることを保障するための、制度的枠組みが脆弱 (Weak institutional framework to ensure/monitor the delivery of results)
- 取引に参加するインセンティブを維持するための仕組みが存在しない (Lack of proper mechanisms to maintain participants' incentives)
- 一度購入した価値は、他に売ることはできず、また何の使い道もない (No liquidity/convertibility)
このように、まだ本当の意味で市場の効率性を活用できているとは言えず、従来の寄付市場と大差ありません。GlobalGivingやSocial Markets、Sasix、それにKivaといった既存の仕組みは、すでにこの段階になら達していると言っていいと思います。
私がこの件について少々調べてみた結論としては、「社会貢献価値」取引所プロジェクトで我々が取り組んでいる問題の解決には今のところあまり有用な教訓が得られそうにない、と判断してよさそうです。
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